Lunch Seminar- 台湾の賄賂防止法制の現在と未来
台湾では賄賂行為に対する統一的な法典が設けられていないが、公務員に対する賄賂の防止に関し、法務部は公務員に対する贈与・宴会について公務員連結倫理規範という行政上の規範を制定し、刑法、反汚職犯罪法(中国語:貪污治罪條例)においても公務員贈収賄の処罰規定が設けられており、非公務員に対する商業賄賂に関しては、刑法、証券取引法等の背任罪に該当する可能性がある。
法務部の制定した公務員廉潔倫理規範によれば、一定の状況に該当する場合(例えば、偶発的であり、特定の権利義務に影響を及ぼす恐れがなく、且つ一般社交礼儀基準に一致する場合(例えば公務員結婚の際3000台湾元以下の祝儀を贈与))を除き、公務員はその職務と利害関係のある関係者からの贈与・宴会を要求、約束又は受領してはならない。ただし、公務員廉潔倫理規範はあくまでも公務員に対する行政上の規範であり、違反した場合、必ずしも刑法、反汚職犯罪法の贈収賄罪に該当せず、贈収賄罪は贈与した金銭や利益が公務員の職務行為の間に対価関係があるかどうかによって判断すべきである。対価関係があるかどうかは、職務行為の内容、双方の関係、賄賂の種類、価額、贈与の時間等により認定する。具体的にいうと、贈与又は接待により公務員に職務違反行為をさせること、又はその職務の判断に影響を与えることを避けるべきであり、また、価値の高すぎる贈与を避けるべきである。よって、公務員関連法令及び各政府機関の制定した関連規則に遵守しなければならず、特に贈与、接待に関する規定に注意する必要がある。
また、贈収賄罪に該当するには、公務員の「職務上行為」に対し賄賂や不正利益を要求、約束又は交付しなければならない。公務員の「職務行為」の認定について、実務上は「法定職権説」と「実質影響力説」と分けられている。「法定職権説」によれば、「職務行為」とは公務員の「法定職務権限」上の行為を指すが、実質影響力説によれば、「職務行為」とは「その行為が職務と関連性があり、実質上は当該職務の影響力が及ばすもの」を指す。某元立法委員(国会議員)の収賄談合交渉事件においては、一審判決では「法定職権説」が採用され、談合交渉は立法委員の法定職務権限ではないので職務行為に該当しないと認定された。しかしながら、二審判決においては採用されたのは「実質影響力説」であり、つまり、当該元立法委員は談合交渉の対象の人事、財務及び業務執行に対し実質的な影響力があるため、その収賄行為はその職務と密接的な関連性があり、公務員収賄罪に該当すべきであるという。現在最高裁判所は当該事件を審理しており、最高裁判所が「法定職権説」又は「実質影響力説」を採用するかどうかは、公務員の「職務上行為」の認定基準を左右するので、その将来の進捗について細心の注意を要する。
最後は、非公務員に対する商業賄賂について、現段階台湾では商業賄賂に対する専門の法典がないが、非公務員の者は賄賂又は不正利益を受領し、その所属する事業に損害を被らせた場合、例えば、上場会社の調達部長はサプライヤーのコミッションを受取ったから、市場価格より遥かに高い合理ではない価格で原材料を購入し、会社の利益が大幅に損なわれた場合、刑法、証券取引法上の背任罪に該当するおそれがある。なお、贈賄者は第三者に贈賄し、贈賄者の所属する会社はそれにより損害(名誉上の損害(例えば、贈賄事件はマスコミに報道される)又は財産上の損害(例えば、贈賄者は無断に会社の金銭を使って贈賄に使用する))を被った場合、贈賄者は背任罪を問われる可能性もある。
企業のカルテル対策
近年において、世界各国の競争法主務官庁のカルテルに対する調査はますます積極的になり、処罰もますます厳しくなったため、企業のカルテル対策の重要性はもはや言う必要もなくなっている。
台湾公平交易法の規定によれば、カルテルとは、同じ生産販売段階における競業会社が、契約、協議又はその他の方式によって合意に達し、商品又はサービスの価格、数量、技術、製品、設備、取引対象、取引地域又はその他互いの事業活動を拘束する行為を共同で決定し、生産、商品取引又はサービス供給の市場機能に影響を与えうることを指す。実務上の合意に対する認定は比較的に緩く、法的拘束力の有無を問わず、競争に関するセンシティブな情報の交換があれば、該当すると思われる恐れがある。
カルテルの関連規定に違反した場合、民事の損害賠償責任に直面するほか、行政罰又は刑事罰に処される可能性もある。民事において、故意による違反である場合、最大は原告の証明済損害額の3倍の懲罰的損害賠償金を賠償しなければならない;行政において、違法事情が重大な場合、企業の前会計年度売上額の10%の過料が課される;刑事において、違法と認定された後に行為を停止せず又は再犯した場合、行為者は3年以下の懲役、拘留及び/又は新台湾ドル1億元以下の罰金等が科される可能性がある。よって、法的用件に満たし、且つ事前に公平交易委員会に申請して許可を得た場合を除き、企業は予防措置を取り、従業員がカルテルと疑われる行為を行うことを避ける必要がある。
直接又は第三者(販売店など)を通して競業他社と価格について話し合ったり、価格情報を交換したり、及びその他取引条件若しくは経営戦略に関する情報を交換することは高度のリスク行為であり、厳格に禁止すべきである;たとえ市場調査機関に価格情報を提供したり、又はその他同業者の間で価格情報をまとめたり、送付したりする可能性のある第三者仲介機関に価格情報を提供することは同じくカルテルの合意があると認定される可能性があり、中度のリスク行為に該当すると思われる。
カルテルと認定され、処罰を受けるリスクを軽減するため、企業は公平交易委員会が提供する「企業の反トラストに関するガバナンス行為規則」及び「公平交易委員会の企業による反トラストガバナンス規定作成に関するガイドライン」等を参考して内部規定を作成し、従業員に関連規則の告知及び遵守を要求することができる。例えば:
- 競業他社が競争に関するセンシティブ情報(価格、数量、設備稼働率、取引対象等)を話し合おうとする場合、直ちに拒否してその場を離れ、且つ上司又は法務部に報告すること。
- 業界内の書簡、メール及び電話のショートメッセージ等の内容に対して常に高度な警戒心を保ち、且つ競業他社との会議、電話、面会時間、場所、内容及びセンシティブ情報を話すことができない自社の立場を明確に返事したことを書面に記録すること。
- 競業他社の価格情報の取得先を公になっている情報又は同業組合がまとめた歴史的全体資料に限定すること。
- 公告若しくはニュースリリースの発表、又は同業組合名義の会合の形で、競業他社が自社に合わせて価格若しくは稼働率を調整できたり、競業会社間で競争に関するセンシティブ情報を話し合うことができたりする機会を与えないこと。